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補講・日程未定

服はどこへ行くのか

この回で分かるようになること

この回は、数字の話です

14回のあいだ、「どう稼ぐか」を見てきました。 誰から受け取るか、いくらで売るか、何個売れば赤字にならないか、いくら集めるか。

どれも、お金が入るところまでの話でした。 作って、売れて、お金が入る。ここで話が終わっています。

その先を見た回が、ありません。 売れた物は、買った人の手元に行きます。そのあと、どこへ行くのでしょうか。

今日は、そこに商売が成り立つのかを計算します。 第8回でやった計算と、同じ形の式を使います。

同じ「服」を数えているのに、数字が一致しません

環境省が、日本の服の流れを推計しています。 段に分けて見てみます。

同じ服を数えているのに、段ごとに減ります(単位 万トン)0作って国内に出る82.1手放されて焼却等へ49.9回収されて選別へ19中古衣料として海外へ10国内で古着として売る1確度 A 一次情報(環境省の推計)資料自身が「2025年時点の実情が反映されたものでない」と断っています
いちばん下の細い帯が、国内で古着として売られる量です。細いのは長さを値に合わせているからで、縮めてはいません。

82.1万トンから始まって、最後は1万トンです。 同じ服を数えているのに、段ごとに大きく減っています。焼却などで処理される49.9万トンは、作って国内に出てくる量のおよそ6割です。

国内で古着になるのは1万トン、海外へ出るのは10万トンです。 10倍の差があります。

ここで1つ、断りを入れておきます。 この推計は「2025年に作られたもの」で、資料自身が「必ずしも2025年時点の実情が反映されたものではない」と注意を書いています。

第4回で、数字には基準日を付ける、という話をしました。 この数字は、年が1点に決まりません。 決まらないと分かって使うのと、決まっていると思って使うのは、別のことです。

減っていくのは、途中で止まっているからです

なぜ段ごとに減るのでしょうか。

1つは、家に置いたままになるからです。 着なくなった服を、捨てずに持っている。環境省の推計では、これを別の枠で数えています。 手放されていないので、どの段にも進みません。

もう1つは、回収に回らないからです。 家庭から手放される服の多くは、燃えるごみ・燃えないごみとして出されています。 推計では43.8万トンです。

回収に回ったものだけが、選別に進みます。 市や町が集めるものと、店などが集めるものを合わせて19万トンです。

そして選別のあと、行き先が3つに分かれます。 上の図にある海外への10万トンと国内の1万トンのほかに、布やわた(綿)に戻して使うぶんが6万トンあります。

布やわたに戻すことを、リサイクル(材料に戻して使い直すこと)と言います。 そのまま服として使い直すことを、リユース(形を変えずにもう一度使うこと)と言います。

海外へ出るぶんと国内の古着がリユースで、布やわたに戻すぶんがリサイクルです。

この流れの、どこを見たことがありますか

ここまでの数字は、大きすぎて自分と結びつきません。 身の回りのどこに当たるかを見てみます。

メルカリで服を売ったことがある人は、この流れの中にいます。 人から人へ直接渡る分は、推計では7万トンです。 フリマアプリ、ネットオークション、友だちに譲る、バザーやフリーマーケットに出す。これが全部、同じ枠に入っています。

古着屋に持っていく場合は、別の枠です。 店が買い取って、店から次の人に売る分が10万トンです。 セカンドストリートのような店に持ち込んだ服は、ここに入ります。

ユニクロや無印良品の店に、回収の箱が置いてあるのを見たことがあるかもしれません。 あれが、さきほどの「民間回収等 4万トン」の入口です。

市の回収に出す場合は、「行政回収・集団回収 15万トン」です。 自治体が古布の日を決めて集めているところがあります。

同じ「着なくなった服」でも、どこに出すかで行き先が変わります。 メルカリで売れば、次の人がそのまま着ます。回収の箱に入れれば、選別に回って、さきほどの3つに分かれます。

自分が出したものが、どの枠に入っていたか。 それだけでも、この流れが身近になります。

捨てられたものが商売になる条件は、3つです

ここから、計算の話になります。

古着を売る商売を考えてみてください。 仕入れは、捨てられたものです。買うお金は、ほとんどかかりません。

それなら儲かりそうに見えます。 ところが、そう簡単ではありません。3つのことが起きます。

1つ目は、集める費用です。 どこかに置いてあるものを、運んでこないといけません。軽トラックのガソリン代、人の手間、置いておく場所の家賃。

服は、かさばります。 同じ重さでも、ねじやボルトのようには積めません。1回の運搬で運べる量が少ないので、運搬の回数が増えます。

2つ目は、選別する費用です。 集めたものは、混ざっています。着られるもの、汚れているもの、破れているもの。 これを分けるのに、人が1枚ずつ見ます。

ここが機械にしにくいところです。 汚れているかどうか、いま着られる形かどうかは、見て触らないと分かりません。 第9回で「数えられる形で書く」をやりましたが、この判断は数えにくいものの側に入ります。

3つ目は、売れる値段です。 選別を通ったものが、いくらで売れるか。新品より安くないと、選ばれません。

そして、上限があります。 新品が3000円で売られているものは、古着で3000円にはなりません。 第7回で値段の上と下をはさんだのを思い出してください。古着の上限は、同じものの新品の値段で決まります。

この3つで、式が1つ作れます。

売れる値段 × 売れる枚数 が、集める費用 + 選別する費用 を超えたところから、残ります。

第8回でやった損益分岐点と、同じ形です。 何枚売れば赤字にならないか、という問いになります。

仮の数字で、一度解いてみます

ここから出す数字は、すべて仮のものです。 実際の会社の数字ではありません。回収や選別にいくらかかるかは、公表された数字が見つかりませんでした。

置いてみます。

1枚売るために、20枚を集めることになります。

20枚集めて1枚売れるとき、1枚に乗るもの0売れる値段1枚800集める費用20円 × 20枚400残る差額400売れなかった19枚を集めた費用も、売れた1枚が背負います数字はすべて仮のものです。実際の会社の値ではありません
歩留まりを20分の1から10分の1にすると、集める費用は200円に下がります。売る値段を変えなくても、残る額は動きます。

売れた1枚で800円入って、集めるのに400円かかります。 1枚あたり400円が残ります。

家賃と人件費の40万円を、この400円で埋めます。 40万円 ÷ 400円 = 1000枚です。

月に1000枚売れたところで、赤字ではなくなります。 そのために集める枚数は、2万枚です。

ここで、歩留まりを動かしてみてください。 20分の1ではなく10分の1だったとします。

1枚あたり残るのは 800円 − 200円 = 600円になり、40万円 ÷ 600円 で、必要な枚数は約667枚に下がります。

歩留まりを2倍にすると、必要な枚数が3分の2ほどになりました。 値段を上げなくても、選別の精度が上がれば同じことが起きます。

ここが、この計算のおもしろいところです。 売る側の工夫ではなく、集める側と選ぶ側の工夫で、損益分岐点が動きます。

歩留まりが、そのまま分母に効きます

ここが、この回でいちばん大事なところです。

集めた19万トンのうち、国内で古着として売れるのは1万トンでした。 およそ20分の1です。

「集めたもののうち、売り物になる割合」を、歩留まり(ぶあたり)と言います。

歩留まりが低いと、何が起きるでしょうか。

1トンを売るために、20トンを集めることになります。 集める費用も、選別する費用も、20倍のほうにかかります。 売れるのは1トンぶんです。

つまり、こうなります。 売り物にならない19トンの費用も、売れた1トンの値段で回収することになります。

だから、歩留まりが1つ変わると、必要な枚数が大きく動きます。 第8回で「1個あたりに残る額が小さいと、必要な数が増える」という話をしました。同じことが、ここで起きています。

ここで迷う人が多い ① 1万トンは、少なすぎませんか

19万トン集めて1万トンというのは、うまくいっていないように見えます。

そうとも言えません。 残りが捨てられているわけではないからです。

10万トンは海外へ出ています。 6万トンは布やわたに戻っています。 合わせると、集めた19万トンのうち17万トンは、何らかの形で使われています。

「国内で古着として売る」という行き先だけが、1万トンなのです。

なぜ国内の古着が少ないのか。 値段が付くものが限られるからです。 国内で古着として売るには、きれいで、いま着られる形で、買いたい人がいるものでないといけません。

その条件を満たさないものは、値段が付きません。 値段が付かないものは、別の行き先に回ることになります。

ここは、答えが1つに決まる話ではありません。 国内で売れるものを増やそうという動きもあります。それがうまくいくかどうかは、これから決まることです。

なぜ、海外へ出るほうが多いのでしょうか

国内で古着になるのが1万トン、海外へ出るのが10万トンでした。 この差はどこから来るのでしょうか。

さきほどの3つで説明できます。

国内で古着として売るには、選別を細かくしないといけません。 いま着られる形で、きれいで、買いたい人がいるもの。条件が多いほど、通る枚数は減ります。

まとめて海外へ出す場合、選別は粗くなります。 1枚ずつ値段を付けるのではなく、重さでまとめて取引されます。 選別する費用が下がる代わりに、1キログラムあたりの値段も下がります。

つまり、こうなっています。 細かく選んで高く売るか、粗く選んで安くまとめて出すか。

どちらも商売として成り立ちます。 成り立ち方が違うだけです。

そして、量が多いのは後者でした。 選別の費用が下がるほうに、多くが流れています。

もう1つの実例 — 捨てられるのは、古着だけではありません

新品のまま処分される服があります。

テレビの番組で、こういう商売が紹介されていました。 売れ残った新品の服を、まとめて買い取る会社です。

番組の中では、こう語られていました。 元の値段が1万4800円から1万7800円の服を、1着1300円で1500着買い取り、総額200万円。 年間の取扱は4000万着、年商35億円。

ここで1つ、断りを入れます。 この数字は番組の中で語られたもので、会社が公表した資料では確かめられませんでした。 数字そのものではなく、こういう商売が成り立っているという形のほうを見てください。

なぜ買い取ってもらえるのでしょうか。 売れ残った服を持っている側から見ると、置いておくだけで場所の家賃がかかります。 処分するにもお金がかかります。1着1300円でも、渡したほうが得になることがあります。

古着と新品の在庫は、成り立ち方が違います

同じ「捨てられたもの」でも、条件が違います。

同じ「捨てられたもの」でも、お金のかかる場所が逆になります古着仕入れ ほとんどかからない選別 1枚ずつ見る売り物になる割合 低い新品の在庫仕入れ 買い取るお金がかかる選別 ほとんど要らない売り物になる割合 高いどちらが有利という話ではありません。費用のかかる場所が違うだけです
安く仕入れられるものは、たいていどこかに手間がかかっています。仕入れを考えるときは、その手間を先に見てください。

古着は、選別が要ります。 1枚ずつ見て、着られるかどうかを分けます。歩留まりが低いのは、ここが理由です。

新品の在庫は、選別が要りません。 全部が新品で、全部が同じ状態です。 洗う必要もありません。

つまり、さきほどの3つのうち、2つ目がほとんどかかりません。

代わりに、1つ目が大きくなります。 買い取るお金がかかるからです。1着1300円です。古着の仕入れはほとんど0円でしたが、こちらは違います。

どちらが有利とは言えません。 費用のかかる場所が違うだけです。 片方は選別に、もう片方は仕入れに。

自分たちの企画で仕入れを考えるときも、同じ見方ができます。 安く仕入れられるものは、たいていどこかに手間がかかっています。 その手間が、いくらになるかを先に見ます。

ここで迷う人が多い ② 環境のためなのか、儲かるからなのか

古着が売れているのは、環境のためでしょうか。

調べると、そうではない理由が上位に来ます。 新品より安いから、という理由です。

これは、悪いことではありません。 安いから選ぶ人が増えると、結果として使われる服が増えます。 向きが揃っている場面です。

ただし、いつも揃うわけではありません。

揃わない場面を1つ挙げます。 集めた服のうち、汚れや破れがひどいものは、売り物になりません。 環境のためには、これも何とかしたほうがよいことになります。ところが、手間をかけても値段が付きません。

儲かるからで動いている限り、ここは残ります。 値段が付かないものに、誰も手間をかけないからです。

逆の場面もあります。 環境のためだけで動くと、続きません。 第8回で計算したとおり、赤字が続けば止まります。止まった取り組みは、何も片づけません。

だから、両方を見ることになります。 どちらかが正しいという話ではありません。揃っているところでは商売として伸び、揃っていないところでは別の手立てが要る、というだけです。

市場は伸びています。ただし、数字の出どころに注意します

中古品の売買は、金額で見ると伸びています。

2024年で3兆2628億円。前の年より4.5%増えました。 2009年から15年続けて増えています。

ここで、出どころの話をします。 これは国の統計ではありません。 リユース経済新聞という会社が独自に集計した数字です。

環境省の報告書も、この集計を引いています。 つまり、国の側がこの数字を作っているのではなく、民間の集計を参照しています。

だから「国の統計によると」とは言えません。 使うときは、誰が数えた数字なのかを一緒に言います。

第4回で、数字には出どころと調査年を付ける、という話をしました。 同じ話です。 大きな数字が出てきたときほど、誰が数えたのかを見ます。

【考えてみてください】自分たちの企画で、売ったあとの物はどこへ行きますか

自分たちの企画を思い出してください。

売っているものは、形のある物でしょうか。 それとも、サービスや、データのようなものでしょうか。

形のある物なら、それは使われたあとにどこかへ行きます。 捨てられるのか、誰かに渡るのか、置いたままになるのか。

形が無いものでも、何かは残ります。 使った機器の電気、届けるときの包み、印刷した紙。

どこへ行くかを、1つだけ書いてみてください。 答えが出なくても構いません。分からないと書いてもかまいません。

この問いに正しい答えはありません。 ここに書いたことを、あとの回で使うこともありません。

ここで迷う人が多い ③ 自分の企画には関係ない気がする

大きな数字の話に聞こえるかもしれません。 82万トンも、3兆円も、自分の企画とは桁が違います。

関係しているのは、量ではなく形のほうです。

今日やった計算は、3つのものからできていました。 集める費用、選別する費用、売れる値段。

この3つは、仕入れがある企画すべてに出てきます。 仕入れ値が安いものには、たいていどこかに手間がかかっています。

第10回で見積もりを作ったときのことを思い出してください。 場所・物・人・手続きの4つに分けました。今日の「選別する費用」は、そのうちの人に入ります。

安く仕入れられる話が出てきたら、人の手間がどれだけ増えるかを先に見てください。 そこが見えていれば、安いことが得なのかどうかを、自分で判断できます。

この回で、決めなくていいこと

今日のうちに答えを出す必要はありません。

提出するものはありません。 次の回で使うこともありません。

休んだ人が困ることもありません。 この回で扱ったことは、ほかの回の前提になっていません。

残しておきたいのは、見方のほうです。 売ったあとの物がどこへ行くかは、いまの企画では計算に入っていません。 入っていないと知っているのと、考えたことがないのは、別のことです。

この回の参考文献

参考文献の一覧

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