はじめてのマネジメント第1回

01

9/28・10/2(振替予定)

世の中にはどんなビジネスがあるか

この授業で言う「マネジメント」が何かは、オリエンテーションのページにまとめてあります。

この回で分かるようになること

商売は、誰かがお金を払うから続く

商売と聞くと、店に商品が並んで、お客さんがそれを買う場面を思い浮かべると思います。お金を出す人と、受け取る人がその場にいて、目の前でやりとりが起きる。 いちばん分かりやすい形です。

ところが、みなさんが毎日使っているものの多くは、この形になっていません。

LINE でメッセージを送るのに、お金を払っていますか。YouTube を見るのに払っていますか。Google で検索するときはどうですか。払っていないはずです。 それでも、これらの会社はつぶれていません。それどころか、社員が何千人もいて、毎年大きな利益を出しています。

誰かが払っています。 ただ、それがみなさんではないというだけです。

似たことは、身の回りにもあります。部活の遠征でバスを借りるとき、そのお金はどこから出ていますか。 部費だけで足りていないなら、学校が出しているか、保護者会が出しているか、地域の企業が出しているかもしれません。乗っているのはみなさんですが、払っているのは別の誰かです。

商売を見るときは、「使う人」と「払う人」を最初に分けます。 ここを分けずに考え始めると、そのあとの計算が全部ずれます。

この回で覚えるのは2つだけ

新しく覚えることは2つしかありません。

  1. 誰から、何に対して お金を受け取るか
  2. 売上を 掛け算 の形に分けて書く

この2つだけです。 事例そのものを覚える必要はありません。同じ2つの考え方を、違う会社で3回見るだけです。 3回見ると、自分の企画に当てはめられるようになります。

事例として、LINEヤフー・サンリオ・カバー(ホロライブ)の3社を見ます。

「誰から」と「何に対して」を分けて書く

商売を見るときは、次の2つを分けて考えます。

使う人が払うとき使う人 = 払う人会社お金商品・サービス別の人が払うとき使う人会社払う人(広告主)無料で使えるお金
「使う人が払うとき」は、店で買うときの形です。「別の人が払うとき」は LINE や YouTube の形で、使う人と払う人が別になっています。どちらも会社にお金は入りますが、入ってくる先が違います。

なぜ2つに分けるのか。 混ぜて書くと、あとで数えられなくなるからです。

たとえば「若い人向けのアプリで稼ぐ」と書いたとします。これは「誰から」でも「何に対して」でもありません。 誰が払うのかが書かれていませんし、何と引き換えなのかも書かれていません。このまま第4回に進むと、何人いるかを数えられません。 数えるものが決まっていないからです。

分けて書くと、こうなります。

どれを選ぶかで、この先14回の中身が全部変わります。 「使う人本人から」を選べば、何人が払うかを数えます。「広告を出したい企業から」を選べば、どれだけ表示されるかを数えます。数えるものが違います。

選び直してもかまいません。 いまは仮で構いません。第3回で実際に人に聞くと、たいてい変わります。 変わったら、そのとき書き直します。

両方書いてもかまいません。 実際、これから見る3社はどれも「誰から」を複数持っています。ただし、いちばん大きいものがどれかは決めておいてください。 全部が同じ重さだと、力を入れる先が決まりません。

使う人と払う人が違うことがある

さっきの「部活の遠征費」と同じ形は、商売の中にもたくさんあります。

無料で遊べるゲーム。 ほとんどの人は1円も払いません。払っているのは、アイテムを買う一部の人です。払わない人が大勢いることが、払う人にとっての価値になっていることもあります。対戦する相手がいなければ、そのゲームは面白くありません。

学割。 映画館や定期券で、学生は安く買えます。安くしても映画館が損をしないのは、空いている席に人が入るほうが、空いたままより良いからです。払う額は違っても、払う人は本人です。

給食費。 食べるのはみなさんですが、材料を仕入れた業者にお金を払うのは学校です。間に人が挟まると、誰が払っているかが見えにくくなります。

使う人と払う人が違う形は、珍しくありません。 ただ、企画を書くときにここを混ぜると、「みんなが喜ぶけれど、誰もお金を出さない」ものができあがります。

この形はとても書きやすいので、気をつけてください。 「地域の人が集まれる場所を作りたい」「困っている人を助けたい」。やりたいことは立派で、使う人も喜びます。 ところが、そこに誰が払うのかが書かれていないと、始めた翌月から自分の財布が減っていきます。

やりたいことを変える必要はありません。 変えるのは、そこに誰が払うのかを見つけるところです。地域の人が集まる場所なら、集まった人に何かを売るのか、場所を貸すのか、自治体や企業が費用を出すのか。払う人は必ずどこかにいます。 見つけるまでが企画です。

【考えてみてください】いま使っているものは、誰が払っているか

ここでいったん止めて、考えてみてください。

あなたが今日ここに来るまでに使ったもののうち、お金を払わなかったものを1つ思い浮かべてください。 アプリでも、道路でも、駅のトイレでも構いません。

それは誰が払っていますか。 そして、その人はあなたに何をしてほしいと思っているでしょうか。

この答えは、ここには書きません。 課題の問1がこの問いです。今日のうちに答えを出さず、家で書いてください。 授業のあいだに思いついたことがあれば、忘れないうちにメモしておくと、書くときに楽になります。

ここで迷う人が多い ①「誰から」が書けない

自分の企画で「誰から」を書こうとすると、多くの人がここで止まります。止まり方は3つに分かれます。

「自分」と書いてしまう。 「自分がお金を出して始める」と書く人がいます。これは「誰から受け取るか」ではなく「誰が出資するか」の話で、第11回で扱います。いま書くのは、始めたあとに、外から入ってくるお金のことです。

「みんな」と書いてしまう。 「みんなが買ってくれる」では、次の回で人物を描けません。全員に向けた商品は、たいてい誰にも刺さりません。 「みんな」と書きたくなったら、いちばん最初に買いそうな1人を思い浮かべてください。その人が誰かを書きます。

「まだ決まっていない」で止まる。 これがいちばん多いと思います。決まっていなくて構いません。 仮に1つ置いて、先に進んでください。第3回で実際に人に聞くと、たいてい変わります。 いま書くのは、確かめに行くための出発点です。

それでも手が動かないときの、いちばん簡単な始め方があります。 自分がこの1か月にお金を払ったものを3つ書き出してください。 そのうち1つを選んで、「同じものを、自分が売るとしたら誰に売るか」を考えます。自分が払ったことのあるものは、払う理由が分かっています。 ゼロから考えるより、ずっと早く進みます。

「その商売はもうある」と思っても、止めないでください。 すでにあるということは、払う人が実在するということです。第6回で、その相手を実際に見に行きます。誰もやっていない商売より、すでに誰かがやっている商売のほうが、確かめられることが多いです。

事例1 LINEヤフー — 無料のアプリは誰が支えているのか

ここから3つの会社を見ます。知っているつもりの会社ほど、数字を見ると意外だった、ということが起きます。

使っているところを思い出してください

LINE も Yahoo! も、LINEヤフー株式会社 が運営しています。

LINEのトーク一覧を開くと、いちばん上に広告が出ます。 友だちとのやりとりの上に、知らない会社の商品が並んでいるはずです。Yahoo! のトップページにも、検索窓の周りに広告が並びます。公式アカウントから届くメッセージも、多くは企業がお金を払って送っているものです。

これらを使うのに、みなさんは1円も払っていません。

では、誰が払っているのか

答えのひとつは 広告主 です。あの枠に自分の会社の商品を出したい企業が、LINEヤフーにお金を払っています。

「誰から・何に対して」で書くと、こうなります。

使う人(みなさん)と、払う人(企業)が違います。 これが、無料のサービスが成り立つしくみです。

ここまではよく言われる話です。数字を見ると続きがあります

2026年3月期(決算短信 2026年5月8日)の売上収益は 2兆363億6,600万円(前期比6.2%増)で、過去最高でした。

このうち、広告を含む メディア事業は7,351億円 です。

全体のうち、広告はどれくらいだと思いますか。 半分以上でしょうか。

約36%です。 3分の1と少しです。

LINEヤフー 前の年からの伸び(2026年3月期)メディア事業(広告)+0.4%戦略事業(PayPay など)+30.6%広告は、ほとんど増えていません
長さが、前の年からの伸び率です。広告はほとんど増えず、戦略事業だけが伸びています。

戦略事業には PayPay などが含まれます。コンビニやドラッグストアのレジで、スマホの画面を見せて払う、あれです。

何が言えて、何が言えないか

「無料アプリのお客さんは広告主」は正しいです。実際に、広告主が7,351億円を払っています。

「だから売上の大半は広告だ」とまでは言えません。 3分の1と少しです。しかも伸びているのは広告ではなく、決済のほうです。

ひとつの会社の中に、いくつもの商売が同時に動いています。 LINEヤフーは「広告の会社」でも「決済の会社」でもなく、両方をやっている会社です。

自分の企画も、途中でこうなることがあります。 最初は1つの売り方で始めても、やっているうちに別の売り方が育つ。それは失敗ではなく、よくあることです。

ここから持ち帰ること

1つ目。 使う人が無料でも、商売は成り立ちます。払う人が別にいるだけです。

2つ目。 「たぶんこうだろう」と思っていることは、数字を見ると3分の1くらいしか合っていないことがあります。 広告が売上の大半だという思い込みは、実際には36%でした。

3つ目。 それでも、思い込みが全部外れていたわけではありません。 広告主が払っているのは事実です。外れたのは「どれくらい」の部分です。 数字を見る意味は、当たりか外れかを決めることではなく、どれくらいかを知ることにあります。

事例2 サンリオ — 分からないことは、分からないと書く

見たことがあるはずのもの

ハローキティやクロミを作っているのは 株式会社サンリオ です。ぬいぐるみや文房具を売っている会社だと思うのが自然です。

ところが、もう少し広く見てください。 コンビニのお菓子の袋にキャラクターが描いてあることがあります。ドラッグストアの絆創膏にも、スーパーのパンの袋にもいます。あれを作っているのは、サンリオではありません。

お菓子の会社が「この袋にキャラクターを描かせてください」と頼み、売れた分に応じて使用料を払います。 これを ライセンス(キャラクターを他の会社に使わせて、使用料を受け取るしくみ)と言います。

サンリオは、その商品を作っていません。 工場も持たず、並べる店も持ちません。それでもお金が入ります。

数字を見ます

2026年3月期(決算短信 2026年6月23日)は、売上高 1,940億8,800万円(前期比33.9%増)、営業利益 778億5,900万円(同50.3%増)。売上高も各利益も過去最高でした。

営業利益率(売上のうち、本業でどれだけ儲けが残ったかの割合)は 約40.1% です。売上100円のうち、40円が本業の儲けとして残る計算になります。これはかなり高い数字です。

ここが、この事例の本題です

「ライセンスのほうが儲かるから利益率が高いんだ」と言いたくなります。 本当にそうでしょうか。

決算短信を開いて確かめます。 サンリオが分けて公表しているのは 地域ごと(日本、北米、欧州など)の数字でした。ライセンス事業だけの数字は、そこには載っていません。

ここで「分からない」と結論づけるのは、少し早いです。

探す場所は、決算短信だけではありません。 会社は説明会でも話します。その記録が残っていることがあります。実際、サンリオの役員が個人投資家向けのセミナーで、「物販やテーマパークの営業利益率は10〜20%ほどだが、ライセンス事業は60〜70%になる」と述べた記録があります(2025年7月のセミナー。書き起こしを載せているメディアによるもの)。

出所によって、重みが違います

この2つは、同じ重みではありません。

同じ数字でも、出所で重みが違います決算短信取引所の規則に従って会社が出す開示書類。数字の作り方も決まっている引くとき … 「決算短信によると」で足りる説明会での発言の書き起こし会社が話したことを、第三者が記録したもの引くとき … 誰が、いつ、どこで述べたかまで添えるどちらも嘘ではありません。書き方を変えます
上が開示書類、下が第三者の記録です。どちらも使えますが、引くときの書き方を変えます。決算短信に無かったからといって、そこで止めなくて構いません。

時点も違います。 60〜70%が語られたのは2025年7月のセミナーで、この回で見ている40.1%は2026年3月期の実績です。別の期の数字なので、並べて引き算はできません。

だから、こう書きます

「分からない」と書くのは、探せる範囲を探したあとです。

ここまでやって、それでも出てこなければ「確かめられませんでした」と書きます。 これは第3回でも同じです。話を聞きに行って聞けなかったとき、どこまでやって、どこで止まったかを書けば、それも報告として成り立ちます。

最終回で発表するとき、「決算短信には無かったので、説明会の記録を見ました」と言えると、むしろ信用されます。 分かったふりをして数字を作ると、聞いている人には分かります。

ここから持ち帰ること

1つ目。 物を作らずに稼ぐ形があります。 持っているものを使わせて、使用料を受け取ります。

2つ目。 1つの資料に無くても、別の資料にはあることがあります。 決算短信は会社が出せる範囲で出したもので、知りたいことが全部載っているわけではありません。探す場所を増やすと、見つかることがあります。

3つ目。 どこで見つけたかを、数字と一緒に持っておいてください。 開示書類か、会社の資料か、第三者の記録か。同じ数字でも、出所によって重みが違います。

ここで迷う人が多い ②「何に対して」が書けない

「誰から」は書けたのに、「何に対して」で止まる人がいます。止まり方は2つです。

商品の名前を書いてしまう。 「Tシャツに対して」と書く人がいます。間違いではありませんが、そこで止まると次に進めません。 買った人は、布に対してお金を払ったのでしょうか。「そのTシャツを着ている自分」に払ったのかもしれませんし、「イベントに行った記念」に払ったのかもしれません。 サンリオの例で言えば、お菓子の会社が払ったのは絵そのものではなく、「その絵があると売れる」という見込みに対してです。

「サービス」と書いてしまう。 「便利なサービスに対して」では、何も言っていないのと同じです。便利さのどこにお金を払ったのか。 早いことですか。近いことですか。失敗しないことですか。 そこまで書けると、第6回で相手と比べるときに使えます。

うまく書けないときは、逆から考えてみてください。 その人がお金を払わなかったとしたら、代わりに何をしますか。自分でやりますか。我慢しますか。別の店に行きますか。 そこで諦めているものが、「何に対して」の中身です。

もう1つの手があります。 その人が払ったあとに何が変わるかを書く、という考え方です。写真を撮ってもらった人は、撮ってもらう前と後で何が変わりましたか。 手元にデータが増えたことでしょうか。それとも、その日一日が特別になったことでしょうか。 変わったもののほうが、「何に対して」に近いです。

ここで書いたものは、第2回でもう一度使います。 第2回では、9つのマスのうち「価値提案」というところに、これを書き写します。いま書いておくと、次の回で手が止まりません。

事例3 カバー(ホロライブ) — 直感が数字と合わない

画面に流れる、色のついたコメント

配信の画面に流れる、色のついたコメント。あれが投げ銭(スーパーチャット)です。 金額によって色が変わって、しばらく画面に残ります。

見たことがある人は多いと思います。 そして、「VTuber はスパチャで稼いでいる」というイメージがあるはずです。

この直感が、数字と合いません。

数字を見ます

ホロライブを運営する カバー株式会社 の2026年3月期(決算短信 2026年5月14日)の売上高は 493億3,000万円 で、前期比 13.7%増 でした。伸びています。

ところが分野ごとに見ると、こうなっていました。

カバー 2026年3月期 分野別の伸び(前期比)他社とのコラボ+25.3%ライブ・イベント+18.7%グッズの販売+15.6%配信(投げ銭など)-2.0%04つのうち、減っているのは配信だけです
縦の線がゼロです。右に出ているものは伸びた分野、左に出ているものは減った分野です。

「誰から」で書き直すと

「誰から」が4つあります。 そして、減っているのは1つ目だけです。

もし「誰から」を1つしか書いていなかったら、この会社は縮んでいるように見えたはずです。分けて書いたから、伸びている場所と減っている場所が別々に見えました。

もうひとつ、気になることがあります

売上は13.7%伸びました。ところが営業利益は 70億5,600万円 で、前期比 11.8%減 です。

売上が伸びれば利益も伸びる、とは限りません。

さらに、当期純利益(最後に残る利益)は 30億1,600万円で前期比45.7%減売上が伸びているのに、最後に残るお金は半分近く減っています。

この理由は、この回では扱いません。 第8回で、売上から利益までの流れを1段ずつ追います。いまは「売上と利益は別のものだ」というところまで持っていてください。

ここから持ち帰ること

1つ目。 いちばん目立つものが、いちばん稼いでいるとは限りません。 画面に流れる投げ銭は誰の目にも入りますが、売上では減っていました。

2つ目。 「誰から」を分けて書いておくと、どこが伸びてどこが減ったかが別々に見えます。 1つにまとめて書いていたら、この会社は「伸びている」で終わっていました。

3つ目。 売上が伸びても、利益は減ることがあります。 ニュースの見出しは売上だけを取り上げることが多いので、利益まで見る癖をつけてください。

3枚を並べると、何が見えるか

3つの会社を見ました。覚えてほしいのは会社の名前ではなく、3つに共通していることです。

どの会社も、「誰から」が1つではありません。

そして、どの会社も、いちばん目立つ稼ぎ方と、いちばん伸びている稼ぎ方が違いました。

目立つもの と、お金が入っているものLINEヤフー目立つ広告お金決済サンリオ目立つグッズの店お金ライセンスカバー目立つ配信の投げ銭お金コラボ・ライブ・グッズ目立つのは商売の入口。入口で払う額は、たいてい小さい
3社とも、いちばん目に入るものと、お金が入っているものが違いました。

これは偶然ではありません。 入口が広いほど人が来ます。ところが、入口で払う額は小さいことが多い。無料だったり、安かったりします。その先で、別の形でお金が入ります。

だからニュースの見出しだけでは、その会社が何で稼いでいるかは分かりません。 見出しは目立つほうを書きます。決算短信は、お金の流れのほうを書きます。 見出しを見たら、元の資料まで戻ってください。戻り方は、この授業の後半で「一次情報の探し方」として扱います。

自分の企画でも同じことが起きます。 自分がいちばん作りたいものと、いちばんお金が入るものが違うことがあります。そのときに気づけるように、「誰から」を1つに絞らずに書いておいてください。

売上を掛け算で書いてみる

「誰から」「何に対して」が分かったら、次は 売上を掛け算の形に分けます

売上=売れた数×1つあたりの金額たとえばグッズ買った人の数 × 1人あたりの金額ライブチケットの枚数 × チケット1枚の値段広告表示された回数 × 1回あたりの単価どちらを増やすかで、やることが変わります
3つとも形は同じで、掛ける中身が違うだけです。自分の商売なら何と何を掛けるか、当てはめてみてください。

なぜ掛け算にするのか。 「売上を増やす」と言っただけでは、明日やることが決まらないからです。

分けると、増やせる場所が別々に見えます。

同じ「売上を増やす」でも、やることが違いますかかる手間買う人を増やす知ってもらう。届く範囲を広げるいちばんお金と時間がかかる1回あたりの金額を上げる値段を上げる。ついでに買うものを増やす今日からできる買う回数を増やすまた来てもらうすでに来た人が相手なので、探すより楽
左の帯が、かかる手間です。どれを選ぶかで、明日やることが変わります。手間の小さいほうから試すと、早く結果が分かります。

同じ「売上を増やす」でも、3つはまったく別の仕事です。

掛ける数が3つになることもある

サブスクリプション(毎月お金を払い続けて使い続けるしくみ)なら、こうなります。

売上 = 会員数 × 月額 × 続いた月数

「続いた月数」が入るのが、この形の特徴です。 1人が1年続けば、1か月でやめる人の12倍になります。だから、この形の商売は「やめさせないこと」に力を入れます。

みなさんが使っている月額のサービスを思い浮かべてください。やめようとしたときに、引き止められた経験はありませんか。 あれは、この掛け算の3つ目を守るためです。

3つの会社を掛け算にすると

さっきの3社を、この形に当てはめてみます。

自分の企画も、必ずこの形になります。 ならないとしたら、まだ「何に対して」が決まっていません。

ここで迷う人が多い ③ 掛け算に分けられない

うまく分けられなくてもかまいません。 ただ、詰まり方には種類があります。

掛けるものが思いつかない。 「売上 = ? × ?」で止まる場合、たいてい単位が決まっていません。 1回いくらなのか、1人いくらなのか、1個いくらなのか。お金が動く単位を1つ決めてください。 ここが決まれば、掛ける相手は自然に出ます。

掛けても合わない気がする。 「1日10人 × 1,000円 × 300日」と出したものの、そんなに来る気がしない、という場合。その感覚のほうが正しいことが多いです。 ただ、いま直さなくて構いません。第4回で実際に数え、第5回で合わせます。 いまは形を作るところまでです。

分けると小さく見えて、書きたくない。 これもよくあります。小さく出ることは失敗ではありません。 大きく見える数字を書いて第5回で崩れるより、小さくても自分で説明できる数字のほうが、最後まで使えます。

分ける前に、いくらか決めてしまう。 「月に30万円くらい欲しい」から逆算して、人数と単価を作ってしまう場合。逆算そのものは悪くありません。 ただ、そうやって出した人数を、第4回で「本当にそれだけいるか」と数え直してください。 欲しい額から出した数字は、確かめた数字ではありません。

詰まった場所が、その商売のいちばん難しいところです。 覚えておいて、第3回で人に聞くときの材料にしてください。「どこで詰まったか」を書き留めておくと、聞く相手も、聞くことも決まります。

自分の企画で、順番にやってみる

ここまでの2つを、自分の企画に当てはめます。順番があります。

この順番でやります1やりたいことを、1文で書くまだ商売の形になっていなくてよい2「誰から」を書くお金を出すのは誰か。使う人と違うなら両方3「何に対して」を書く何と引き換えに払うのか4掛け算にする1つ売るといくら入り、それが何回起きるか4から始めると、数字を作ってから理由を後付けすることになります
1から順に書けば、数字には必ず理由が付きます。空欄が埋まらないところがあれば、そこが次に考えるところです。

この順番を守ってください。 1から順に書けば、数字には必ず理由が付きます。

1文で書けたら、この回は通っています

最後に、こう書けるかを確かめてください。

わたしの企画は、〇〇な人から、△△に対して、お金を受け取ります。

空欄が埋まらないところがあれば、そこが次に考えるところです。 全部埋まっている必要はありません。

うまく書けないときは

書けないのは、考えていないからではありません。 たいてい、まだ決めていないだけです。

決まっていないときは、仮に1つ置いて、印を付けておいてください。 「たぶんこうだと思うが、確かめていない」と書いておけば、第3回でそこを聞きに行けます。

この授業では、14回かけて何度も書き直します。 いま書いたものが最後まで残ることは、まずありません。書き直した回数のほうが、最後には効いてきます。

最終回で、第1回に書いたものと見比べます。 そのとき「全然違うものになった」と言えるほうが、確かめながら進んだ証拠になります。 いま完成させようとしなくて大丈夫です。

数字を見るときの約束

この回で、いくつも数字を見ました。これから自分で数字を使うときに、1つだけ守ってほしいことがあります。

どこから取った数字かを、一緒に書いてください。

「売上は2兆円」ではなく、「2026年3月期の決算短信で、売上収益は2兆363億6,600万円」。面倒に見えますが、これを書いておくと、あとで自分が助かります。

最終回の発表で、「その数字はどこから取りましたか」と必ず聞かれます。 そのとき答えられるかどうかは、いま書いたかどうかで決まります。 半年前に見たページを思い出すのは、まず無理です。

確かめられなかったことは、確かめられなかったと書いてください。 サンリオのところで見たとおりです。空欄のほうが、想像で埋めた数字より強いです。

もう1つ。いつの数字かを書いてください。 「売上2兆363億6,600万円」ではなく「2026年3月期の売上収益は2兆363億6,600万円」。会社の数字は毎年変わります。去年の数字を今年の話に使うと、それだけで間違いになります。

この2つ——どこから取ったかいつの数字か——は、この先14回ずっと同じことを言い続けます。面倒だと思うのは最初だけです。

次の回までにやること

このページの下に課題が5問あります。Teams から提出してください。締切は次の授業の前日の正午です。

問1が、さっきの「誰が払っているか」です。 授業中に考えたことがあれば、それを書いてください。授業で挙げたものでも、別のものでも構いません。

問4で、自分がやってみたい商売を1文で書きます。 このページの「1文で書けたら、この回は通っています」の形をそのまま使ってください。まだぼんやりしていて大丈夫です。

次の回では答えを持ち寄り、チームと題材を決めます。このページは、そのあとも開きに来てください。 第2回で「価値提案」を書くとき、第4回で数える単位を決めるとき、ここで書いた「誰から・何に対して」に戻ります。

配布資料

課題

この課題について

正解が1つに決まる問題ではありません。 調べて書いても、考えて書いてもかまいません。 外れていても構わないので、まずは自分なりの答えを出してみてください。 自分で決めてから解説を読むと、そこがいちばん頭に残ります。 各問に字数の目安を添えてありますが、あくまで目安です。 ぴったり合わせる必要はありません。

  • 提出は Teams の課題から
  • 締切は 10月1日(木)正午
  • 解説は次の回に、Teams でリンクをお知らせします

問1

あなたがふだん無料で使っているサービスを1つ挙げてください。その会社は、誰からお金を受け取っていると思いますか。

そのうえで、その会社はあなたに何をしてほしいと思っているでしょうか。お金を払っていないあなたに、会社が何を期待しているのかを考えてみてください。

目安 150〜250字

問2

LINEヤフー株式会社の売上のうち、広告は約36%で、しかも前の年からほとんど増えていません。 増えているのはPayPayなどの決済のほうです。 もしあなたがLINEヤフーの社長なら、これからどちらに力を入れますか。理由も書いてください。

目安 150〜250字

問3

ホロライブを運営するカバー株式会社は、売上が13.7%伸びたのに営業利益は11.8%減りました。売上が伸びれば利益も伸びる、とは限らないのはなぜだと思いますか。

そのうえで、あなたがやってみたい商売でも同じことが起きるとしたら、どんなときだと思いますか。売れているのに手元に残らない、という場面を想像してみてください。

目安 150〜250字

問4

あなたが今いちばんやってみたい商売は、誰から、何に対してお金を受け取りますか。まず1文で書いてみてください。

そのうえで、その人はいま、それをどうやって済ませていますか。 あなたの商売がまだ無い状態で、その人が同じ用事をどう片づけているかを書いてみてください。

目安 100〜200字

問5

今回の授業で、いちばん分からなかったこと、もやもやしたことを教えてください。 課題の答えではなく、授業の内容についてです。 うまく言葉にできなければ、授業のどのあたりだったかだけでも構いません。

目安 50〜150字

Teams の課題から提出してください。

この回の参考文献

参考文献の一覧

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