04
補講・日程未定
なぜ働くのか
この回で分かるようになること
- 自分のアルバイトや目指している仕事が、誰を楽にしているかを図に描ける
- 同じ仕事が、誰かに負担をかけることもあると気づける
- 自分が働く理由を、2つ以上の見方で説明できる
先に、3つの問いに答えてみてください
授業のはじめに、次の3つに答えます。それぞれ「そう思う」「そう思わない」「どちらとも言えない」から1つ選んで、理由を1行書いてみてください。
- 社会に出るということは、誰かに影響を与えるということか
- 働くということは、はた(自分のまわりの人)を楽にすることか
- つまり、働くということは、よい影響を与えることか
この3つには、正解を用意していません。 講師も答えを言いません。
授業の最後に、同じ3つにもう一度答えます。 最初の答えは、消さずに残しておいてください。答えが変わっても、変わらなくても構いません。変わったなら、何がきっかけだったかを書けます。変わらなかったなら、なぜ変わらなかったかを書けます。どちらも、この回で手に入るものです。
何のために働くか
次の中から、自分に近いものを2つまで選んでみてください。アルバイトをしていない人は、これから働くとしたら、で構いません。
- 収入を得るため
- 仕事を通して達成感や生きがいを得るため
- 自分の能力を発揮するため
- 働くのがあたりまえだから
- 人の役に立つため
- 社会的な地位を得るため
- 親やきょうだいを養うため
- その他
選んだら、次を読んでください。
内閣府が2017年に、全国の16歳から29歳の1万人に、同じことを聞いています。選択肢も、上の8つと同じです。2つまで選ぶ形です。いちばん多かったのは収入を得るためで、84.6%でした。 人の役に立つためは13.6%です。2つまで選べるので、足すと100%を超えます。(内閣府『平成30年版 子供・若者白書』の特集。2017年の調査)
収入のために働くのは、多くの人に共通する、まっとうな答えです。 暮らしが立たなければ、ほかの理由で働き続けることもできません。
本編でも、同じことを見てきました。事業は、稼がないと続きません。 人も同じです。
この回は、収入という答えを出発点にします。そのうえで、収入のほかに、働くことに何がついてくるかを見ていきます。
「はたを楽にする」は、言葉の由来ではない
「働く」は「はた(傍)を楽にする」から来ている、という話を聞いたことがあるかもしれません。入口の2つ目の問いも、この話から作っています。
国語辞典で「働く」を引くと、もとは、からだを動かすことを指す言葉だったと書かれています。そこから、精を出して仕事をする、という意味が生まれました。中世になって、この意味を書き表すために、「人」と「動」を組み合わせた「働」という字が日本で作られた、とも書かれています。(小学館『精選版 日本国語大辞典』の「働く」。コトバンクで読めます)
「はたを楽にする」から来た、という説明は、辞典には載っていません。 辞典に載っていない以上、言葉の由来とは言えません。音を使った語呂合わせ(音が似ていることを使った言葉遊び)として受け取っておくのがよさそうです。
ただ、同じ辞典には、こんな使い方も載っています。 他人のためにがんばる、人のために走り回る、という意味の「働く」です。江戸時代、1711年の小説に出てくる使い方です。
つまり、「働く」が「誰かのために動く」意味で使われてきたことは、辞典で確かめられます。由来ではないけれど、言いたいことには根拠がある。語呂合わせではあっても、仕事の形をよく表しています。
仕事の多くは、誰かの手間や困りごとを引き受けて、その代わりにお金を受け取っています。 「はたを楽にする」は、その形をうまく言い当てています。
働く意味は、1つではない
働く理由を、大きく3つに分けてみます。
- 生計を立てる。 自分や家族の暮らしを支える
- 誰かの役に立つ。 お客さんや、一緒に働く人を楽にする
- 自分が育つ。 できることが増える、任されることが増える
3つとも、働く理由になります。 どれか1つが正しい、ということはありません。
多くの場合、3つは混ざっています。 たとえばコンビニのアルバイトなら、学費のために入った人が、朝に急いでいるお客さんのレジを早く打てるようになって、それが少しうれしい。発注を任されて、売れ筋が分かるようになる。1つの仕事の中に、3つとも入っています。
重なり方は、人によって違います。同じ店で同じ時間に働いていても、ある人は生計がほとんどで、ある人は育つほうが大きい。同じ人でも、時期によって変わることがあります。 入ったばかりのころと2年目とでは、違うかもしれません。
最初に選んだ2つを見返してみてください。3つのうち、どれが入っていて、どれが入っていないか。 入っていないものが、悪いわけではありません。いまの自分の重なり方が分かれば十分です。
お店と同じ形をしている
本編の第2回で、ビジネスモデルキャンバス(事業の要点を9つのマスに書く表)を書きました。その中に、次の3つのマスがありました。
- 顧客セグメント:誰のための事業か
- 価値提案:その人の、何を楽にするか
- 収益の流れ:何に対して、お金を受け取るか
お店は、お客さんの困りごとを片づけて、その代わりに売上を得ています。 9つのマスは、その形を書くための表でした。
働く人も、同じ形をしています。 誰かの手間を引き受けて、その代わりに給料を受け取る。給料を払っているのはお店ですが、そのお金は、多くの場合、もとをたどるとお客さんが払ったものです。
だから、自分の仕事についても、同じ3つが書けます。誰を楽にしているか、何を楽にしているか、何に対してお金を受け取っているか。 次のワークでは、このうち「誰を」を図にします。
ワーク(1):その仕事が明日なくなったら
いまのアルバイトを1つ選んでください。アルバイトをしていない人は、目指している仕事で構いません。どちらも思い浮かばなければ、家族の仕事や、よく行くお店の店員さんの仕事でも構いません。
問いは1つです。その仕事が明日なくなったら、誰がどう困るか。
紙の裏に、同心円(真ん中が同じで、大きさの違う輪を重ねた図)があります。
- 真ん中:自分の仕事
- 内側の輪:その仕事が直接助けている人
- 外側の輪:その先で、間接に助かっている人
たとえば、お店のホールのアルバイトなら、こう書けます。
- 内側:食べに来たお客さん、同じ時間に厨房に入っている人
- 外側:そのお客さんの家族(その日は夕飯を作らずに済んだ)、お店に食材を納めている人
外側の輪は、すぐには出てこないかもしれません。 内側に書いた人が、そのあと誰と会うかを考えると、出てくることが多いです。
ワーク(2):負担をかけうる人も書き足す
紙の裏の「負担をかけうる人」の欄に、その仕事が負担をかけうる人を書き足してみてください。
仕事は、誰かを楽にすると同時に、別の誰かに負担をかけることがあります。たとえば、夜遅くまで開けているお店は、近所の人にとっては音や明かりが気になるかもしれません。人が足りない日は、同じ時間に入っている人に仕事が寄ります。
自分自身も入れてください。 遅い時間まで働いた次の日の授業、睡眠、体。働いている本人も、負担を受ける側にいます。
書けなくても、空いたままでも構いません。 共有のときに、ほかの人の図を見て思いついたら、書き足してください。よい影響だけを見ていると、同じ仕事が誰かの負担になっていることに気づきにくくなります。両方を同じ紙に書いておくと、あとで比べられます。
ワーク(3):「お客様の笑顔のため」に残る人
次の話は、架空の人の話です。3〜4人で話してみてください。
あるお店で働く、入社2年目のAさん。閉店のあと、残業代の出ない時間まで残って、片づけと翌日の準備、お店のSNSの投稿を続けています。本人は「お客様の笑顔のためなら」と言っています。店長も「Aさんがいて助かる」と言っています。
話し合うのは2つです。
- この働き方を10年続けたら、Aさんとお店に、どんなことが起きそうか
- どうすれば、Aさんはよい影響を与え続けられるか
考えるときは、3つの方向から見てみてください。Aさんの体と暮らし、お店のほかの人、お客さん。
Aさんがえらいか、悪いか、で決めなくて構いません。Aさんがお客さんを楽にしていることは本当です。そのうえで、それを10年続けられる形になっているかを考えます。
ワーク(4):自分を守るために知っておくこと
よい影響を与え続けるには、働く本人が続けられることが前提になります。そのための決まりが、法律にあります。
アルバイトも、法律の上では労働者です。 労働基準法は、職業の種類を問わず、雇われて賃金を受け取っている人を労働者としています。
働かせてよい時間には上限があります。 休憩を除いて、1日8時間、1週40時間を超えて働かせてはいけない、と決められています(労働基準法 第32条)。
時間を延ばして働かせる場合には、割増した賃金を払わなければなりません(同 第37条)。延ばすこと自体にも手続きが要りますが、ここでは、延ばした時間は割増して払われる、ということだけ覚えておけば足ります。
困ったときに相談できる場所があります。 都道府県の労働局や労働基準監督署などに、総合労働相談コーナーがあります。学生や就活生の相談も受けていて、予約は要らず、無料です。面談か電話で相談できます。(厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」)
働くときの決まりについての厚生労働省の資料は、労働法教育の案内ページにまとめられています。
ワーク(3)のAさんの話に戻ってみてください。この節を読む前と後で、話し合ったことに足したいことはありますか。
共有:1人1分で図を紹介する
ワーク(1)(2)で描いた図を、1人1分で紹介します。選んだ仕事と、いちばん外側に書いた人、負担の欄に書いた人を話してみてください。聞く人は、自分の図に足せそうなものがあれば、メモしておきます。ほかの人の図を見て思いついたことは、自分の紙に書き足して構いません。
振り返り:最初の3つの問いに、もう一度答える
授業のはじめに答えた3つの問いに、もう一度答えてみてください。紙の表の「授業後」の列です。
- 社会に出るということは、誰かに影響を与えるということか
- 働くということは、はた(自分のまわりの人)を楽にすることか
- つまり、働くということは、よい影響を与えることか
そのうえで、紙の裏の欄に、変わったことと、その理由を書いてみてください。
書き方に迷ったら、「前は◯◯と思っていた/いまは◯◯と思う」の形にすると書きやすくなります。変わらなかった人は、変わらなかった理由を書いてみてください。 それも、この回で考えた結果です。
この回に、提出するものはありません。 紙は自分の手元に残しておいてください。最終回の資料を作るときや、就職の面接で働く理由を聞かれたときに、自分が一度考えたことを見返せます。
「事業はなぜ稼ぐのか」はこちら
なぜ稼ぐのか。事業はなぜ稼ぐのかを考える回です。この回は、その主語を自分に置きかえた回です。
配布資料
この回の参考文献
平成30年版 子供・若者白書(特集 就労等に関する若者の意識)
補講4で使いました。2017年に全国の16〜29歳の1万人に「何のために仕事をするか」を2つまで聞いた結果で、いちばん多かったのは収入を得るため(84.6%)です。リンク先は国立国会図書館が保存している写しです。
精選版 日本国語大辞典「働く」
補講4で使いました。「働く」は、もとはからだを動かすことを指した言葉で、そこから労働する意味が生まれた、という語誌と、他人のために努力するという使い方(1711年の用例)を確かめました。
労働基準法(第9条・第32条・第37条)
補講4で使いました。アルバイトも労働者に入ること(第9条)、1日8時間・1週40時間の上限(第32条)、時間を延ばしたときの割増賃金(第37条)です。
総合労働相談コーナーのご案内
補講4で使いました。働いていて困ったときの相談先です。学生や就活生の相談も受けていて、予約は要らず、無料です。
『働くこと』と『労働法』~大学・短大・高専・専門学校生等に教えるための手引き~
補講4で紹介しました。働くときの決まりを、学生向けに教えるための手引きです。